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慢性腎臓病の食事療法から考える 患者さんが主体的に頑張る医療への転換が必要

慢性腎臓病(CKD)が今や国民病と言われるまでになってきました。進行して透析導入となる患者も増加し、国民医療費の観点からも社会問題となってきています。長年、栄養士の立場から腎臓病の医療に携わってきた市川和子先生は、これまでの医療サイド中心の診療から患者の自覚的な努力を評価しそれを加味した医療報酬へと転換すべきと説く。

CKDとは、従来の免疫に絡んだ疾病から最近では生活習慣病を中心とした血管障害が原因となっている腎臓障害が慢性的に続いている状態のことをいい、国内に患者は1330万人で国民の8人に1人がCKDとなっていると推定され、新たな国民病として注目されている。腎機能の低下には明確な指標があります。血液中の老廃物の1種であるクレアチニン(Cr)の値と、年齢、性別から算出した「推算GFR(eGFR)」の値で判断します。腎機能が低下するとこのeGFRの値も低下します。健康な人のeGFRは100mL/分/1.73m2前後ですが、この値が60mL/分/1.73m2以下になるとCKDと診断され、さらに15mL/分/1.73m2となると腎代替療法を考えざるを得なくなります。

国民病となったCKD対策の重要性

市川和子先生

私が管理栄養士として病棟での仕事が始まった頃(約30年前)は、慢性糸球体腎炎の治療といえば副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を長期間服用しながら、食事療法と安静な状態を保つことが治療の主流でした。食べては安静にするという生活が数カ月間に及ぶことになります。一方でステロイド剤は食欲増進効果があることから、食事とは別に間食も多くなり、体重も増え、その結果糖尿病を発症してしまう患者さんもたくさんいました。入院期間中に体重が10kgも増え、脂肪肝を呈した患者さんもいました。このような患者さんには、食事指導を行い、エネルギー制限食を提供すると体重は低下し、それに伴いたんぱく尿も減少しました。当時はこうしたステロイド治療を受けている患者さんにエネルギー調整食を提供することが栄養士の重要な仕事でした。数年後、肥満に伴う腎症発症の報告が学会などで相次ぎ、CKDが生活習慣によるところが大きい病気であることを痛感しました。

現在、透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病性腎症であることが広く知られた結果、腎臓病が注目されています。腎臓は体内でできた老廃物を除去する臓器であり、その機能の低下は様々な病気の原因となり得ることから「終末臓器」とも言われています。

生活習慣病の増加とともに高齢化社会を迎え加齢に伴う腎機能低下もあいまって、前述の通り、国内成人の8人に1人がCKDになっていると言われています。さらに透析患者の増加は、医療費の増加に拍車をかけており、社会問題となっています。CKDに対して早急な対策が求められています。

CKD対策には栄養学的介入が欠かせない

生活習慣を改善するといっても、仕事、運動、睡眠、食事など生活全般を見直す必要があります。とりわけ食事は身体をつくる最も基本中の基本です。食事内容を改善することは生活習慣病の改善に大きく寄与します。

何も気づくことなく、知らないうちに病気が進行している患者さんもいます。私が勤務していた大学病院でも、全く治療経験がなく、体調不良で救急に搬送された後、そのまま透析導入となる方が毎年数人はいらっしゃいます。そのような患者さんに過去の体調などを確認すると既に数年前から症状があったという方がしばしばです。

がんでは早期診断、早期治療の意義が広く周知されるようになり、健診を受診する方は急速に増えています。早期発見、早期治療の重要性はCKDでも同じです。透析直前と診断された患者さんでもきちんと食事療法を行い、服薬指導も行うことにより透析導入の開始が2~3年遅くなるケースも珍しくありません。中には、治療が奏効して寛解する患者さんもいます。

正確な診断のもと的確な治療介入を行うことは病気の進行を遅らせるだけではなく、健康寿命の延伸にもつながります。そのために最も手軽にできることが食事療法なのです。私は、全国の栄養士の方々に減塩活動などCKDに対する啓発活動を地域ぐるみで推進して栄養介入し少しでも腎臓病の進行を阻止していただきたいと思っています。

栄養管理の死角とその対策

真面目な患者さんほど一生懸命に食事療法に取り組まれますが、それがかえって患者さんの健康を損なうことがあります。例えば、低たんぱく食事指導の結果、エネルギー不足に陥る患者さんがいるので、このような方には、管理栄養士も医療者も注意が必要です。低たんぱく食事療法では、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品の摂取制限を行いますが、その結果十分なエネルギーが摂取できなくなる患者さんも見られます。そこでたんぱく質を含まない糖質や脂質が多く含まれる調味料などを上手に利用した料理が必要となります。

しかし、最近は「家庭での料理離れ」が著しく、日々の食事も店屋物やコンビニエンスストアの食品が大半を占めるようになってきました。元々コンビニで販売する食品は食や見た目を優先し、たんぱく質量などは考慮していません。そのような環境で暮らす訳ですから患者さんも大きく2パターンに分類されます。食事療法を全く無視して食事をするタイプと気にし過ぎて何も食べられなくなるタイプです。本来ならば家庭で食事療法を行っていただきたいのですが、最近ではそのような細やかなことをしていただけるご家庭は希になっています。

そこで対策の1つとして「治療のための食品販売」が必要ではないかと考えています。既に、腎疾患治療のための治療用特殊食品が開発されています。CKDを含む腎臓病用の低たんぱく食品は主食用を中心に数多く揃っており、これらを使用すると比較的簡単にエネルギーを保ちながら低たんぱく食にすることができます。今や国民病となったCKD患者さんのために、コンビニなどでもこのような商品を扱ってほしいと思います。

ここで提案ですが、特定の治療用特殊食品の購入など患者さんが食事療法を続けるために必要な費用を確定申告の対象にしてはどうでしょうか。大人用紙おむつは医療費控除の対象になりますが、現在、腎臓病の患者さんが治療特殊食品を使用しても医療費控除の対象になりません。

行政もがんばって食事療法を続けている患者さんに対して評価していただくことが重要ではないかと考えます。低たんぱく食事療法を行うことにより透析導入患者が少しでも減少すれば、目的は達成されます。これからの慢性期医療は、医療サイド中心の診療から患者の自覚的な努力を評価しそれを加味した診療報酬への転換期にあります。自分の疾病は自分で認知し理解し、そして自らが積極的に治療に参加する時を迎えていると思います。

市川和子(いちかわ・かずこ)先生プロフィール

1976年岡山県立短期大学食物科卒業後、川崎医科大学附属病院栄養部勤務。2013年川崎医科大学附属病院栄養部部長。2016年川崎医療福祉大学医療技術学部臨床栄養学科特任准教授。2006年日本病態栄養学会NSTコーディネーター。2016年腎臓病病態栄養専門管理栄養士 『いざ実践!慢性腎臓病の栄養管理』の著書、他『腎臓リハビリテーション』、雑誌『臨床透析』『ニュートリションケア』『臨床栄養』でも執筆多数。

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