医のこころ
一般社団法人 日本医療学会

第1回「コロナ・ショックとリーダーシップ」

コロナ・ショックとリーダーシップ

世界史上、感染症のパンデミックは60数回に上る。COVID-19は拡大のスピードと広がりでは前例がない。「見えざる敵」と戦う「勝者なき世界大戦」とも言われている。

それでもコロナ退治に国・地域で優劣が出ている。西洋(欧米)より東洋(東アジア)、大国より小国、中央(大都市)より地方(田舎)、男性より女性の政治リーダーがコロナの抑 え込みに成功している。

世界中で、これまでの歴史的実績や力関係が「逆転する」現象が起きている。COVID-19は人類の生命を脅かすと同時に世界の政治・経済・社会を「大きく変革」しようとしている。

国・地域で感染症対策に優劣が生じているのは何故か。様々な要因が考えられるが、主因の1つは政治リーダーの違いだろう。

ドイツのメルケル首相、台湾の蔡総統、ニュージーランドのアーダーン首相など女性リーダーが成果を上げている。これに対して感染者・死者が断トツに多く、対策に失敗しているのが、米国のトランプ大統領とブラジルのボルソナロ大統領。両人ともなかなかの偉丈夫で、マスクも着けず、勇ましいが、コロナに立ち向かうには知性に欠けるデマゴーグ(扇動政治家)だ。

日本では1世紀以上前から「元始、女性は太陽であった」(平塚らいてう)と謳われた。女性リーダーがコロナに強いのは天性と思えるが、世界の女性リーダーを見ると、知性、教養、品性にも秀でている。

政治に限らずリーダーは、個人は凡庸でもブレーンに恵まれ、「聞く耳」を持てば務まる。台湾の蔡総統は個人の能力も高いが、ITに強い学者を副総統に起用し、感染予防の水際対策に成功した。

ところがトランプは就任以来、主要閣僚や補佐官を次々と解任、辞任させて来た。その1人が批判、中傷の暴露本を出す始末。結局、周りを固めているのはKIDS(娘婿のクシュナー、娘のイヴァンカ、息子のドナルド・トランプ・ジュニアとその弟)。まさに「ガキの家族集団」で主人も「小学生の能力」とまで侮蔑されている。これでは情報は片寄り、的確な判断は難しい。

イラン革命防衛隊司令官ソレイマニの暗殺計画も「ソレマダヨ!」と止められず「暗殺は外交政策にならない」とメディアに叩かれた。

同じ共和党大統領でも「大根役者」のレーガンは優秀な閣僚を集め、彼らに担がれたので、本物の大統領役で「最高の演技」が出来た。

翻って「安倍一強長期政権」はどうか?第一次安倍内閣は閣僚に政治活動を共にしてきた同志議員を登用「お友達内閣」と揶揄された。その反省か第二次安倍内閣は気心の知れたエリート官僚と若手議員で固めた「官邸」主導を展開した。彼らを補佐官や秘書官に任命して「官邸」は、さながら「お小姓集団」。これでは色々なアイデアは出ても、リーダーに必要な「ご意見番」にはならない。そして首相、官房長官、補佐官、秘書官も長く居座り、人脈、金脈の利権構造が凝り固まった。

因みに安倍首相に過剰な支援を受け、感覚マヒの河井克行元法相は総理補佐官の経験者。

未曾有の災禍に見舞われている世界。我々はそれを克服して行くため相応しいリーダーを選らばなければならない。優れたリーダーシップはリーダー個人の能力も去ることながら「秀でたブレーン」を配する体制と「聞く耳」を持つ姿勢である。内外の政局を注視して行きたい。

2020.7.1

上田克己

プロフィール

上田 克己(うえだ・かつみ)
1944年 福岡県豊前市出身
1968年 慶応義塾大学卒業 同年 日本経済新聞社入社
1983年 ロンドン特派員
1991年 東京本社編集局産業部長
1998年 出版局長
2001年 テレビ東京常務取締役
2004年 BSテレビ東京代表取締役社長
2007年 テレビ大阪代表取締役社長
2010年 同 代表取締役会長
2013年 同 顧問
現在、東通産業社外取締役、日本記者クラブ会員
趣味は美術鑑賞

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