医のこころ
一般社団法人 日本医療学会

日中医学交流の難しさ

大切なのは医療文化の交流を深めること

日本医療学会理事長
高崎健

私は臨床医として医療に従事してきましたが、近年は、病院運営や高齢者問題その他多くの医療問題にも関心を持って活動して来ています。

私の師である故・中山恒明先生は、国際外科学会から「世紀の外科医賞」を授与され世界的外科医でしたが、医療制度改革、臨床医育成、専門医制度、その他多方面の社会活動にも関わって来られました。そしてこれらの活動に対し昭和57年、勲一等瑞宝章が授与されました。先生は常に「患者さん中心の医療」の実現を目指して来られ、この精神は我々多くの弟子にも染み付いています。

現代の医療現場では科学的エビデンスに基づいて作成されたガイドラインに沿って医療を行うことが求められて来ています。その結果人としての患者さんの存在が忘れられ科学技術優先の医療となる事態も起こっており、患者さんと医師との信頼関係は希薄化して来ています。この問題は中国では日本以上に大きな問題になっています。

私は中国との関係を深めて20年になります。当初の気になっていたのは、先進医療を求めメディカルツーリズムとして来日される中国からの患者さんのことです。彼らは言葉や高額な治療費問題を抱え、すみ慣れた土地を離れ知り合いもいない日本へ精神的不安を抱えながら治療を受に来られているのです。そこで我々が出来ることは中国の医師と交流し、中国でも日本と同じ治療が受けられるような医療環境作りに協力することだと考え、北京の中日友好病院の知人の医師と話し合い医療交流を始めた経緯があります。中国でも「患者中心の医療」と言う言葉はよく聞かれました。しかし具体的にはどう言うことであるのか理解されてはいませんでした。近年は、毎月北京中心に、中国各地で活動をして来ていますが、中国の若い医師は医療技術の習得には非常に熱心です。しかし日本以上に中国での医師と患者さんとのトラブルは深刻な状態であり、より良い人間関係を築くためには単に医療技術の交流だけではなく医療文化の交流を深めることがより大切だと思っています。しかしこれは大変に難しいことです。

今年2月下旬、日中文化交流協会が編成した日本医学訪中団で、医療機器や医学出版の方々と一緒に北京、福州、アモイを訪ねました。中国人民対外友好協会の周到な接待もあって、最新の病院や介護施設での参観と交流を通し、新たな見聞を得、再認識できた事もあり、収穫の多い旅でありました。しかしながら触れられたくないところは隠されており、表面的な説明に終わっているところも多く、これでは本当の交流にはならないと感じた部分もありました。

現在北京大学医学部には各学年の1割以上に日本人留学生が在学しています。一度彼らと会合を持ったのですが70名以上の学生が集まってくれました。この他の大学にも日本人留学生は居られるそうです。このような若い人達が中国の若者と親密な友情関係を築き、蟠りのない付き合いを始めるようになれば本当に両国にとってより意味のある交流が進むだろうと期待しています。

〈たかさき・けん 医師〉
日中文化交流(日本中国文化交流協会編集) NO.877 2019.4.1より転載

日本医療学会理事長 高崎 健

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