医のこころ
一般社団法人 日本医療学会

[対談] 回復期リハビリ医療は賑やかな都会でこそ実践すべきだ

近年、医療をめぐる環境の変化に対応するため、各病院病床の機能再編が進められている。すなわち高度急性期、一般急性期、亜急性期、長期療養の4種類の病床を地域毎に適正に配置し、それらと介護施設、居住系サービス、在宅サービスなどと連携することにより、加速する高齢化社会の中で適切な医療と介護を提供できる枠組み作りが目指されている。そのような動きの中で、個々の医療施設は機能を明確にし、新しい医療供給体制に応じた取り組みが求められている

最近東京の都心、原宿に回復期リハビリテーションに特化した機能をもつ病院が誕生した。「なぜ繁華な街中に病院を」と、意外に感じられる方も少なくないと思われる。そこで今回、当の原宿リハビリテーション病院の病院長である四津良平先生から直接お話をうかがうことにした。

回復期リハビリテーションとは

高崎 回復期リハビリテーションという言葉は、まだ一般には知られていないように思います。回復期リハビリテーションについてお聞かせください。

四津 はい。リハビリテーション(以下リハビリ)というと、どのようなものかイメージが浮かぶと思いますが、回復期リハビリとなると知っている人は少ないでしょうし、医療者の間でも正確な知識を持っている人は多くないでしょう。その意味では、もっと知ってもらうことが重要だと考えています。

リハビリという言葉はかなり以前からありましたが、1992年に慶應義塾大学医学部の千野直一先生がリハビリテーション講座を開設された時には、回復期リハビリという概念はなかったのです。当時は、脳梗塞後遺症、骨折などに対する機能回復法という位置づけであったと思います。一方、回復期リハビリは、脳梗塞など限られた疾患のリハビリが医療保険を利用して行える国の制度です。対象疾患は、脳血管疾患、脊髄損傷、大腿骨骨折、廃用症候群、股関節・膝関節の人工関節置換術後などで、入院期間も疾患によって定められています。

この制度の趣旨は、急性期治療後のリハビリの効果が得られる期間に、急性期治療を受けた施設とは別の専門施設に移り回復期リハビリを受けることにより、効率的に患者さんの機能回復を図ろうというものです。これにより、急性期病院では入院待ちの多くの急性期の患者さんの受け入れが可能になり、また患者さんにとっても待たずに十分なリハビリ受けられることになります。病院経営の面からも、急性期病院にはメリットのある制度だと思います。急性期と回復期の病院機能による棲み分けといえます。

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回復期リハビリテーション病院の機能

原宿リハビリテーション病院の四津良平院長

高崎 私自身、先日原宿リハビリテーション病院を見せていただいた際、このような形があるのだと気づかされました。原宿リハビリテーション病院の印象は、朝から晩までリハビリというものでした。

四津 確かに、当院ではリハビリのみしかやっていませんから。

高崎 そうですね。入院生活そのものがリハビリですね。1日2時間、3時間と時間を区切って、何単位のリハビリが行えたかをみるという、従来とは質の違うリハビリが行われていました。従来の急性期病院でのリハビリとは異質なものだなと感じました。

急性期の治療後なるべく早い時期にリハビリを開始することが、患者さんの回復に効果的であることはあきらかになっているのですね。

四津 おっしゃるように、急性期病院でのリハビリに掛ける時間は、私の経験でも1日30分やるかやらないかです。しかし、30分では到底、機能低下を防げる十分な時間ではありません。急性期病院で、当院で施行しているような9単位・3時間のリハビリを患者さんに受けさせろと言っても無理です。人はいないし場所もないという状態ですから。

やはり、急性期病院というのは治療、手術を行ったり、内視鏡で出血を防いだりというのが、役割分担であって、1つの急性期病院で回復期病院と同じような対応を希望されても、実際できないですね。その点では、回復期の病院に来ればできるということを、医療者も患者さんも知っていただいて、急性期の先生は「自分たちの手で急性期治療をしました、後は回復期の先生たちで診てください」と依頼するようなサイクルになるのが、国の医療財政的にも、病院の経営にも良いし、もちろん、患者さんにも良いのではないかと思います。

高崎 かつては、脳梗塞で急性期治療を受けた患者さんは、そのままその病院に長く入院していましたが、急性期治療後3、4日できちんとリハビリを受けられる施設があれば、その後の回復効果も相当違ってくるでしょうね。その意味で、脳卒中の回復期にリハビリの専門家が24時間リハビリを行う必要があると感じました。

四津 24時間対応も重要ですが、急性期病院では土曜、日曜、祭日にはほとんどリハビリは行われていません。その点われわれは、土曜、日曜、祭日、大晦日、元旦もしっかりやります。やはりやる分だけADLは向上します。以前、元プロ野球の長嶋茂雄氏が脳梗塞で倒れた後、懸命にリハビリに取り組み、かなり機能が回復しました。その時、「リハビリは嘘をつかない」と発言したそうです。これは長嶋氏がリハビリの大切さを切実に感じたうえで、自然に出てきた言葉だと思います。

リハビリに対する一般の意識を変えることも重要

原宿リハビリテーション病院は渋谷区神宮前に
位置する回復期リハビリテーション病院。
以前はキリンビールの社屋だったが全面的に
改装した。

高崎 原宿リハビリテーション病院を見せていただいて印象深かったのは、日常生活に近い事柄までリハビリの対象になっているのですね。一般家庭の室内のモデルがあって、そこで訓練を受けるというような

四津 はい。実際に料理をしてもらう、実際のお座敷を作って正座してその座敷に行く時にはわざわざ階段も登ってというようなことが行えるようにしています。つまり、入浴、排便、食事、就寝をできるようになってから、家に帰ってもらうということを目指しています。

高崎 そうですね。一般の方も急性期治療とリハビリのイメージを変えて、きちんと家に帰れるようになるためには、急性期病院の次は回復期リハビリ病院というように、病院の機能がきちんと分かれていることを意識していただきたいですね。「急性期病院を追い出された」と誤解するのではなく、「次の良い医療を受けるためには早く移った方が良い」というように。

四津 おっしゃる通りです。従来の日本の医療風土では、1回手術してもらうとその施設の外来に何十年も通う、手術をしたら元気になるまでそこにいるというのが普通でしたから。

回復期リハビリのポイント

広々としたスペースでリハビリテーション医療
が実践される

高崎 他施設との連携についてはいかがでしょう。

四津 はい。先生のおられた女子医科大学とも連携しています。当院は、患者さんが直接外来に来て、例えばお腹が痛いとか、頭が痛いとか、後遺症があるからリハビリとか、そういう病院ではありません。制度上、必ず急性期施設で先ほどあげた対象疾患の病名を付けてもらい、発症からおよそ2ヵ月以内に当院に紹介されないと受診できないようになっています。ですから、慢性期に入って、例えば、脳梗塞になって6ヵ月たちました、じゃあ回復期リハビリで一生懸命やりましょうと言っても、国の制度上、入院できないのです。これは、国が発症からどのくらいの期間以内なら、リハビリの効果があるだろうという検討の結果決められたものです。これについても、これから普及してゆかなければならないところです。

高崎 リハビリをなるべく早く始めた方が良いということですね。

四津 患者さんを寝かしておいて良いことは1つもありませんから。筋肉は衰えるし、肺機能や心機能も落ちます。しかし、むやみに動かすのではなく、個々の患者さんの状態に合った動かし方を、理学療法士なり運動療法士なりがきちんと行うことが大切です。

高崎 リハビリの内容にも個人差があるということですね。

四津 はい。脳梗塞の患者さんでも、非常に軽い患者さんから、高次脳機能障害で運動性失語があってしゃべれず、ちょっと手が動かないけれど自立できるという人から、車椅子にも自分で乗れない、寝返りも打てないという人まで幅広いですね。ですから、その方に合わせたリハビリをやるというのも大事なことです。

高崎 すると、リハビリ開始前にメニューを決める段階があるのですね。

四津 はい。リハビリメニューは医師が決めます。メニュー決定のポイントの1つは嚥下です。ものを食べるということは人間の大きな楽しみであるし、家族も鼻からチューブを入れたり、胃婁を造設したりするのは望まないですから、嚥下の訓練を重視しています。ただ、患者さんの体力がつくまで一時的に経管栄養や胃瘻造設を行うこともあります。カロリーが十分足りて体力がついた段階で、嚥下に必要な筋肉のトレーニングを行い、トレーニングが奏功したら胃瘻を閉鎖するという手順をとることもあります。

高崎 中心静脈栄養についてはいかがですか。

四津 時には考慮しますが、口から入れるのに勝るものはありません。経管栄養でもよいのですが、胃と腸に食べ物を入れることを重視しています。

リハビリスタッフの確保と教育

高崎 病院には理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などたくさんのリハビリスタッフが勤務していますね。

四津 はい。現在のリハビリスタッフは257人です。

高崎 スタッフの確保はどのようにされていますか。

四津 われわれの医療グループの施設の1つにリハビリテーション学院があります。そこを卒業して入職するスタッフもいますが、グループ外のリハビリ専門学校を出ていて当院を見学した結果、入職するという場合もあります。

高崎 リハビリスタッフは、比較的若い男性が多いようでしたが、皆さん患者さんに非常に優しく接している姿に驚きました。

四津 皆、20代、30代の若者ですが、厳しく教育しています。すこし話がそれますが、患者さんや家族は何をリハビリのよりどころにしているかというと、精神的な支えなのです。いくら「リハビリをやりましょう、やりましょう」と言っても、簡単に動かせるものではありません。そのような時、「今日はそこまで歩いてみましょう」といった働きかけが大切だと教えています。

高崎 そうですね。リハビリは、薬や機械ではなく、結局人が一番の治療手段ですから。

都会でリハビリ医療を展開する理由

高崎 リハビリにおける家族の存在についてはいかがですか。

四津 家族の方も見学できます。例えば、右の片麻痺がある患者さんの支え方などについて、退院前に家族に教育します。つまり、どのように介護したら患者さんに一番良いか、どうすれば大きな力がなくても介護ができるかなど、実際に見てもらって、やってもらいます。入院中も退院後も家族の支えは重要です。

高崎 家族の支えという視点からリハビリ病院は都会にあったほうがよいと。

四津 その通りです。当院の入院期間は2ヵ月から6ヵ月に及びます。すると、病院に住むという形になりますから、家族の支えなしには容易にリハビリを続けられません。家族が頻回に面会に来られるようなロケーションが大切だと思います。もちろん都会での病院開設は経営上不利です。都心の一等地の病院であろうと山奥の病院であろうと、診療報酬は変わらず、スタッフは集めにくく、人件費も高いですから。しかし、私自身の経験からは、都心から郊外の病院には、月に1度通うのがやっとでした。それを考えると、家族が勤め帰りに立ち寄れるということが重要ではないかと思います。

それに、高齢者は住み慣れた地域から離れれば元気が出ないと思います。やはり入院しても、家族や孫のそばに居たいと思うのではないでしょうか。

高崎 国はもう少し考えて都会でも病院経営が成り立つようにしたいものですね。病院長が、医療のことでなく、経営財政上のことで苦労しなければならないというのは、本来のあるべき姿ではないように思います。

四津 私自身は、患者さんのために何ができるかを考えるのが好きですね。

回復期リハビリ病院の受け入れ基準と連携システム

高崎 原宿リハビリテーション病院では、患者さんの受け入れ基準はどのようになっているのでしょう。

四津 受け入れの手順は、急性期病院からの転院候補の患者さんの情報を、医療連携を通じて当院が受け取ります。受け取り後、医療連携担当者に来院してもらい、院長、副院長、看護部長と情報を検討して、期待できるADLの改善度などに基づき受け入れの可否を決めています。当院では、コミュニケーションが取れない例、抗癌剤投与中など医療費が高額になる例(包括医療であるため)、終末期の例は受け入れていません。

高崎 お話のように、急性期病院との連携をされていますが、地域全体としての連携のシステムはできているのですか。

四津 個々の病院同士で連携しているというのが現状です。東京23区を結ぶ公的な連携システムはできていません。

高崎 今後を考えると、急性期、亜急性期、リハビリ、療養などの機能別の病院をつなぐ組織的な連携が必要ですね。

四津 そうですね。私も団塊の世代ですが、2025年問題にみるように、より厳しい現実が待っているのだと思います。

高崎 本日は意義深いお話をありがとうございました。

四津良平(よづ・りょうへい)先生

原宿リハビリテーション病院病院長、慶應義塾大学名誉教授(医学部)。専門は心臓血管外科。1973年に慶應義塾大学医学部を卒業。81年に米ニューヨーク州立大学胸部外科に留学。84年に米オハイオ州アクロン大学医用生体工学部兼任助教授。91年慶應義塾派遣留学(米ベイラー大学臓器移植科)。93年に慶應義塾大学医学部専任講師(外科学)。2002年慶應義塾大学医学部外科学教授、14年に同名誉教授(医学部)。14年に一般社団法人巨樹の会松戸リハビリテーション病院院長補佐、15年から現職。

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